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リテールメディアの基礎知識

2025.02.25

日本の小売業を取り巻く環境は変化を続けています。具体的には、EC市場の拡大や業界再編、外国人旅行者(インバウンド)の需要回復などが挙げられます。
その様な中で、『リテールメディアの成長』も大きな注目を集める変化のひとつです。この記事では欧米の情報を交えつつ、日本のリテールメディアの現状と今後について解説します。

≪リテールメディアとは≫

 リテールメディアとは小売企業が独自で展開する広告プラットフォームのことです。
大きくはEC事業者のメディアと、実店舗事業者のメディアに分類され、各小売企業が保有する顧客データを組み合わせることで購買行動に直接的な影響を与える
強力なツールとして需要が高まっています。(※顧客データは顧客が使用を許諾したもの)
店舗やECサイトで買い物中の消費者にリーチできる点(購買近接点での接触)は他メディアにはない特長と言えるでしょう。

具体的な媒体の詳細は後述します。

アメリカのリテールメディア市場の推移
(出典:EMARKETER調査データより)

≪リテールメディアの需要が高まる背景≫

 欧米を中心にインターネット広告、SNS広告へのユーザー行動データの使用を制限する動きが加速しています。行動データとはサードパーティー(主にインターネットサービス・製品を提供する事業者)が収集したユーザー(消費者)の行動データです。こうした制限を受けて広告主は、ユーザー承諾済みのファーストパーティーデータを活用できる新たなメディアを模索することになり、リテールメディアへの広告出稿が増加しているのです。
アメリカの調査会社「EMARKETER」によるとアメリカではコロナ前後からオンラインを中心にリテールメディアが急成長し、2023年のリテールメディア広告市場は約6兆8000億円(451億ドル)、2027年には約16兆円(1061億ドル)に拡大すると予測されています。

一方、日本のリテールメディアもEC事業者を中心に市場の拡大が見込まれていますが、店舗事業者も大手を中心にリテールメディア事業を開始する環境が整い高い伸び率が予測されています。2023年の市場規模3761億円(EC事業者3405億円+店舗事業者356億円)に対して2027年は9017億(EC事業者7537億円+店舗事業者1480億円)と4年で2倍以上の市場規模になる見込みです。

日本のリテールメディア市場の推移
(出典:CARTA HOLDINGS2025年1月発表資料より)

≪広告主にも消費者にも有益なリテールメディア≫

冒頭で述べたようにリテールメディアの強みは小売企業が保有する顧客データを活用できる点です。メーカーなどの広告主視点ではそれらの会員情報、ID-POSデータを
各メディアと組み合わせることでターゲットの絞り込みや出稿頻度の最適化など、広告・販促の効果・効率化を図ることができます。最終的には広告・販促費のムダ・ムラ・ムリを圧縮することにつながります。
一方で、消費者には自分の好みやニーズに合った情報が提供され、さらにクーポンやポイントといった割引が得られるというメリットがあります。

≪リテールメディア例≫

ここでは主なリテールメディアの概要をご紹介します。
(全国に300店舗以上の小売店を展開するTRIALのメディア資料より抜粋)

<インストア(店内)のリテールメディア例> 
■音声付き店内サイネージ

代表的なリテールメディアで、来店者に視覚と聴覚から強いインパクトを与えることができます。
動画や静止画(紙芝居型など)により様々な情報発信が可能。
テレビCMとの連動や店頭オリジナル動画の放映により商品のリマインドや認知の押し上げに効果があります。

音声付き店内サイネージ

スキップカートクーポン

■店内放送
店内放送は、サイネージに比べて広告効果のエリアが広いことが特長です。
設置されたエリアにいる人に訴求できるサイネージに対して、店内放送は広域にひろがる来店者に訴求することが可能。

■スキップカートクーポン
TRIALの店内にはタブレット画面とスキャナーを搭載したカートが設置されています。セルフレジ機能により「レジ待ち」なしの快適な買い物体験を実現するものですが、会員はカート使用にあたり会員情報を読み込ませるので、広告主は自社商品に親和性の高い顧客にターゲットを絞って広告表示やクーポン発行を行うことが可能で、新規購入やリピート購入の促進に効果があります。

■レシートクーポン
精算時に発行されるレシートと一緒に発行されるクーポンで、次回来店時に対象商品の購入でポイント付与の特典を受けることができます。
例えば、特定の商品を購入したお客様を対象に複数回クーポンを発行することでリピート購入を促しロイヤルユーザーを育成することができます。

レシートクーポン

アプリクーポン

<オンラインのリテールメディア例>

■アプリクーポン
小売店舗のアプリに特定商品を対象にしたクーポンを配信することができます。
精算前までにクーポンの利用ボタンを押すことでポイント付与の特典を受けることができ、新規購入やリピート購入を促進します。

■LINE広告
小売店舗の公式LINEに登録しているお客様にキャンペーン告知や商品画像、動画を送ることができます。Push通知とVoom(動画)による配信があります。

■メールDM
メルマガ登録をしているお客様に対してキャンペーンや新商品の発売などを告知することができます。

≪EC化率・来店者数から見るEC事業者メディアと実店舗事業者メディアの使い分け≫

 2023年の総務省の調査によると日本における各カテゴリーのEC化率は、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器」42.88%、「生活雑貨、家具、インテリア」31.54%と比較的高い割合を示していますが、「食品、飲料、酒類」のEC化率はわずか4.29%です。この事が示しているのは「食品、飲料、酒類」を扱う実店舗(スーパーマーケット等)での購買の多さです。(出典:2023年総務省「EC化調査」資料より)
リテールメディア先進国のアメリカに目を移すと、大手小売のウォールマートの客数の内訳はECが1億2500万人に対して実店舗は約1.7倍の2億1200万人であり、こちらも実店舗の需要が依然として高いことを示しています。(EMARKETER調べ)
生鮮食品や飲料の購入を中心に実店舗への来店頻度は高く、購入を後押しする役割として実店舗におけるリテールメディアの役割は大きいと言えるでしょう。
一方で家電やインテリアなど重量商品のEC化は顕著であり、こちらはオンラインのリテールメディアの活用が重要と言えるでしょう。

≪リテールメディアの今後≫

 現状のリテールメディア市場の内訳はオンラインが多数を占め、その内訳はAmazonや楽天などのEC事業者メディアです。今後実店舗へのサイネージ設置が進むにつれて実店舗事業者メディアの利用も徐々に高まると予想されます。そして、設置が進むと県単位・地方区分単位でのエリアプロモーションが容易となり、ローカルテレビCMやエリアを選定したデジタル広告などを組合せた立体的なリテールメディア活用も盛んになると思われます。
そして、進化を続けるAIやIoT技術の導入が進展することで更にパーソナライズされた広告体験が店内外で提供されるようになるかもしれません。

SalesPlusは、今後もリテールメディアの最新情報や活用事例をご紹介していきます。